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広島地方裁判所 昭和46年(ワ)479号 判決

原告 国

訴訟代理人 松田良企 塩見洋佑 吉田光義 ほか二名

被告 森田商事株式会社

主文

被告は、原告に対し金九、二二七、五四三円及びこれに対する昭和四五年五月一〇日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事  実 〈省略〉

理由

一  森田ゴルフ西日本がゴルフ用品等の販売を業とするものであること、森田ゴルフ西日本が昭和四三年九月三〇日頃から昭和四四年一〇月一四日頃までの間に被告に対し合計二三、七一七、〇六六円を貸付け、同期間内に被告より合計九、八三四、五三五円の返済を受けたことは当事者間に争いがない。従つて森田ゴルフ西日本は、被告に対し貸金残額二二、八八二、五一三円の本件貸付金債権を有していることになる。

二  〈証拠省略〉によると、原告(所管庁広島国税局長)は、森田ゴルフ西日本が昭和四五年五月四日当時原告に対し既に納期限を経過した国税として少なくとも別表(一)滞納税金目録記載の物品税(本税)、加算税、延滞税合計一〇、九五七、三八四円を滞納していたとして同日森田ゴルフ西日本が被告に対して有する本件貸付金債権を差押え、その履行期限を即時と定めた差押調書を作成して同日九日被告に対し債権差押通知書を送達したこと、さらに原告は、森田ゴルフ西日本が原告に対して別表(二)滞納税金目録記載の国税一、三四〇、二〇〇円及び延滞税を滞納しているとして昭和四五年一一月一六日本件貸付金債権を差押え、同日その履行期限を即時と定めた差押調書を作成し、同月一八日過ぎに被告に対し債権差押通知書を送達したことが認められ(但し右各差押がなされたこと自体は当事者間に争いがない)、この認定に反する証拠はない。

そうすると、原告が、被告に対し債権差押通知書を送達したことにより本件貸付金債権に対する差押の効力が生じたから(国税徴収法六二条一項、三項)、原告は国税徴収法六七条一項により本件貸付金債権の取立権を取得したものということができる。

三  被告は、原告の主張する森田ゴルフ西日本の滞納国税は、納税義務のない者に対してなした無効な物品税賦課処分に基づくものであるから、原告の森田ゴルフ西日本に対する国税債権は不存在である旨主張するので考えるのに、取立命令に基く取立訴訟においては、債務名義の内容である執行債権の存否を争うことはできないものと解すべきであるが(最高裁昭和四五年六月一一日判決、民集二四巻六号五〇九頁参照)、その点は国税滞納処分としての差押に基く取立訴訟においても同様であつて、本件訴訟のような国税債権の執行手続としての取立訴訟においては、第三債務者は国税債権の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。従つて本訴において原告の執行債権である森田ゴルフ西日本の滞納国税の存否を争う被告の主張は失当という外ない。

のみならず、森田ゴルフ西日本に対する物品税課税処分につきこれを無効とする重大かつ明白な瑕疵があつたことについてはこれを認めるに足りる的確な証拠はないから、被告の主張は採用できない。

四  ところで被告が、昭和四四年九月二日原告との間で森田ゴルフ西日本が原告に対して滞納している国税の支払いを被告において保証する旨の契約を締結し、これに基づいて合計三、四四四、九八八円を原告に納付したことは当事者間に争いがなく、また森田ゴルフ西日本が被告に対し本件家屋の賃料について合計一三〇万円を支払つていないことは原告の自認するところであるから、森田ゴルフ西日本が商人であり、本件貸付金債権が商事債権であることからすれば、被告の主張する相殺の抗弁が認められない限り、被告は原告に対し原告が取立権を取得した本件貸付金債権一三、八八二、五三一円から被告が支払つた森田ゴルフ西日本の滞納国税三、四四四、九八八円及び森田ゴルフ西日本の被告に対する未払賃料債務一三〇万円を控除した残額である九、一三七、五四三円及びこれに対する原告が本件貸付金債権の支払を最初に請求した日の翌日である昭和四五年五月一〇日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

五  そこで被告の相殺の抗弁について検討する。

(一)  まず被告は、森田ゴルフ西日本に対し合計一、五〇〇万円を貸付けた旨主張するが、〈証拠省略〉に照らし、信用できないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

かえつて〈証拠省略〉を総合すると、被告は、倉庫営業を営むものとして昭和四〇年四月二四日設立され、それ以来被告所有の大阪府高槻市所在の倉庫(以下、高槻倉庫という)を訴外大味株式会社に賃貸し、その賃料により収入を得ていたこと、ところで当時の被告の代表者は訴外森田悦平であつたが、同人は、その実弟が代表者であつた訴外森田ゴルフ株式会社より西日本方面における営業を一任され、本件家屋にあつた森田ゴルフ株式会社の広島営業所を本店とする独立の法人格である森田ゴルフ西日本を設立することとした関係もあつて、被告は広島におけるビル営業を行なうため、昭和四一年一一月九日訴外藤田定三から本件家屋及びその敷地である本件土地を代金約二、三〇〇万円で買受けたこと、右代金支払のため、被告は訴外百十四銀行広島支店から二、五〇〇万円を手形貸付の方法によつて借受けたが、その借入金の返済方法は、元本として毎月四〇万円を支払い、利息として日歩二銭五厘の割合による金員を手形書換時に支払うとの約であつたため、被告は、返済資金として高槻倉庫の賃貸料(月額四一七、〇〇〇円)及び新規買収の本件家屋の賃貸料(本件家屋の賃料額については後述する。)を充てていたが、高槻倉庫の賃貸料の送金が滞りがちで、百十四銀行に対する返済に支障を来たすようになり、同銀行より貸付金の担保に供していた本件土地家屋の競売を申立てる旨の申入れがあつたこと、そのため被告としては、当時の被告代表者森田悦平が代表取締役をしていた森田ゴルフ西日本(昭和四二年一月二四日設立)が本店を本件家屋に置いていたことから、これを処分されることを防ぐため、早急に同銀行に対する返済遅滞金に充当する資金を確保する必要があり、そこで被告は、昭和四三年八月三〇日訴外金井ミツ子及び当時被告の鑑査役をしていた中塚豊に対し高槻倉庫を一、五〇〇万円で売却したこと、右売買代金は即日現金で五〇〇万円が支払われ、残金の支払として同年九月一八日に金井ミツ子の夫金井實が代表者である株式会社金井稔商店が引受をし、支払期日を翌一〇月二日とした額面五〇〇万円の為替手形二通が被告宛に振出されたこと、しかして現金で支払われた五〇〇万円については同年八月三〇日中塚豊から三和銀行広島支店の森田悦平の個人口座へ送金され、そのうち二〇〇万円は被告の百十四銀行に対する前記借入金の返済の用に充てられ、残三〇〇万円は森田悦平が個人で行なつていた森田ゴルフ研究所の費用として充当されたこと、ところで被告が受取つた為替手形二通については、うち一通は支払期日に被告が取立てを委任した広島相互銀行八丁堀支店の被告の普通預金口座に額面金額五〇〇万円が入金され、ついで森田ゴルフ西日本名義の定期預金とされた後うち四〇〇万円が被告名義の定期預金とされ、結局その定期預金は昭和四五年七月三一日に、被告がかねて同銀行から借入れていた借入金の返済に充てられたこと、また残一通については、昭和四三年一〇月四日に被告が取立てを委任した呉相互銀行十日市支店の被告名義普通預金口座に額面五〇〇万円が入金されたが、そのうち四〇〇万円が被告名義の定期預金とされた後、昭和四四年一〇月二四日被告が同銀行から借入れていた手形借入金の返済に充てられたこと、被告の広島東税務署長に対する昭和四三年四月一日から昭和四四年三月三一日までの事業年度分の法人税確定申告書に添付された貸借対照表の資産の部には何ら貸付金の存在を示す勘定が計上されていないことが認められる。

そうすると、被告主張の一、五〇〇万円は、そのうち一〇〇万円、すなわち森田ゴルフ西日本名義の定期預金五〇〇万円が被告名義の定期預金四〇〇万円になつた際の差額が森田ゴルフ西日本に入金になつたとみ得る余地はあるにしても、同会社に対する被告の貸金であると断定できる証拠はなく、その他の一、四〇〇万円については被告が森田ゴルフ西日本に貸付けたと認められる余地は全くない。

(二)  次に被告は、森田ゴルフ西日本は被告より本件家屋を賃料月額三〇万円で賃借し、未払賃料債務として合計八〇〇万円を負担している旨主張するので検討する。

まず昭和四二年一月頃森田ゴルフ西日本が被告より本件家屋を賃借したことは当事者間に争いがないが、その賃料額が被告主張のように月額三〇万円であるとする〈証拠省略〉に照らし、にわかに信用できないし、他に賃料月額が三〇万円であつたと認めるに足りる証拠はない。かえつて〈証拠省略〉によると、前記のとおり被告は、本件土地家屋の購入代金の支払のため百十四銀行広島支店から手形貸付の方法により二、五〇〇万円の融資を受け、その返済として毎月元本として四〇万円、利息として手形書換の都度日歩二銭五厘の割合による金員を支払うこととしたこと、そこで被告は大味株式会社に対する高槻倉庫の賃貸料が一ケ月四一七、〇〇〇円であつたことから右返済金額に見合う額を本件家屋の賃料と定めることとし、本件家屋の一階部分一二九・〇六平方メートルのうち、六九・四二平方メートルを契茶店「ボレロ」に対し賃料一ケ月一五、〇〇〇円、二階部分一二九・〇六平方メートルを石田洋裁店に対し賃料一ケ月四万円で各賃貸し、森田ゴルフ西日本に対しては賃料を一ケ月一〇万円として同社が設立された昭和四二年一月二四日頃本件家屋の一階の残余部分及び三階部分六〇・六二平方メートルを賃貸したこと(但し三階部分は被告と同居であつた)が認められる。

そうすると被告が森田ゴルフ西日本に対して賃貸した本件家屋の賃料は一ケ月一〇万円であることは明らかであり、賃料が一ケ月三〇万円であるとする被告の主張は採用できない。

しかして右賃料の未払額については、被告は、森田ゴルフ西日本は本件家屋賃借時より昭和四四年一〇月末まで賃料を未払いである旨主張するが、〈証拠省略〉に照らし、信用できないし他にこれを認めるに足りる証拠はない。

かえつて〈証拠省略〉によると、被告が広島東税務署長に提出した昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度分の法人税修正申告書及び昭和四三年四月一日から昭和四四年三月三一日までの事業年度分の法人税確定申告書に各添付された損益計算書によれば、被告の昭和四二年四月一日から昭和四四年三月三一日までの間の収入総額は合計一〇、一四九、〇〇〇円であることが認められるところ、前記のとおり高槻倉庫の賃料収入が一ケ月四一七、〇〇〇円、本件家屋につき喫茶店「ボレロ」からの賃料収入が同一五、〇〇〇円、石田洋裁店からの賃料収入が同四万円であり、高槻倉庫は昭和四三年八月三〇日売却され、また〈証拠省略〉によると喫茶店「ボレロ」は昭和四三年一〇月分までの賃料の支払をしたことが認められるから、これらによつて被告の収入金の内訳を計算すると、高槻倉庫の賃料収入、本件家屋の喫茶店「ボレロ」及び石田洋裁店からの賃料収入は合計八、三三四、〇〇〇円となり、従つて残一、八一五、〇〇〇円が森田ゴルフ西日本からの賃料収入と推認されるところ、同会社の賃料は一ケ月一〇万円であるから、同会社は被告の昭和四二年四月一日以降の事業年度中には、同年四月分以降昭和四三年九月分までの一八ケ月分を支払つたことがうかがわれるのである。従つて森田ゴルフ西日本の未払賃料額は、原告の自認額、つまり昭和四三年一〇月分以降昭和四四年一〇月分までの賃料計一三〇万円を超えるものではないということができる。

(三)  してみると被告主張の自働債権は存しないものという外ないから被告の相殺の抗弁は採用できない。

六  以上の説示によると原告の被告に対する本訴請求はすべて理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森川憲明)

別表〈省略〉

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